引っ越し業者に対する損害賠償請求事件

裁判年月日

東京地方裁判所平成22年2月9日判決

概要

 原告が、運送業者である被告に引越荷物の運送を依頼したところ、その引越作業の過程で、被告作業員の故意又は重過失により、高級ブランド品在中の段ボール箱3箱等が紛失又は盗難被害に遭ったと主張し、損害賠償を請求した事案。

クレーム内容

 原告は、本件引越作業の当時体調が悪かったため、開梱作業は時間を掛けてゆっくり行うこととし、日常生活に必要な物があればその都度段ボール箱を開梱して使用し、頻繁に使用しない物が収納された段ボール箱は開梱せずそのまま新居内に保管していた。

 原告は引っ越し作業完了後から約3か月後、翌日から予定していた旅行の準備のために愛用していたルイ・ヴィトンのスーツケースを探したところ、これを見つけられなかったことから不審に思い、未開梱の段ボール箱の所在及び内容物を確認したところ、本件引越作業の途中まで存在していた段ボール箱7箱のうち3箱が紛失していることが判明したため、訴訟を提起するに至った。

業者側の対応

 被告は、引越直後に原告の苦情に対応した経緯から原告が過剰な要求をする者であると考えていたことや、本件引越作業が終了して既に3か月以上が経過してから紛失の申告がなされたことなどから、原告の前記紛失の申告に対しても慎重な対応を行い、補償には応じなかった。

裁判内容

 原告の引越荷物の中にブランド品が存在した可能性が高いことが認められるものの、そのブランド品を特定することはできないうえ、ブランド品の立証自体が不十分な本件において、これらが引越作業に起因して紛失したり盗難に遭ったものとはにわかに認められないとして、原告の請求を棄却した。

コメント

 本件における請求は結果として棄却されていますが、そもそも本件請求は請求の対象となっているブランド品の特定すらされておらず、対象物が存在していたかすら不明な事案です。このような薄弱な根拠をもって訴訟に発展する場合があることは、日々の業務においてどこまで顧客とのやり取りを証拠保全をしておくかを含め、顧客対応の難しさを感じる事件であるといえます。

 本件におけるポイントは、被告が原告のクレーム内容の変遷を主張立証している点です。クレーム対応における非常に重要なポイントの一つとして、クレーム主体の言い分を時系列に沿って記録化することがありますが、当該記録が効力を発揮するのは、まさに本件訴訟におけるようにクレーム主体の言い分が変遷していることを立証することで、クレーム内容の信憑性が低いことを証明する場面です。

 このような場面のため、クレームを発生時の初動から、クレーム内容を厳密に記録化する組織体制を整えることが肝要といえます。

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