クレーム対応方針決定の必要性

企業がクレーム対応に苦戦する理由として、企業としてのクレーム対応方針が決まっていないという場合が多いです。
「お客様は神様」という不合理な発想によって、クレームが発生した場合には、内容問わず、取り敢えず丁寧に対応するという対応方針と呼ぶことすらできないなんとなくの方針を持っている企業はあるものの、自社に発生するクレームを類型化して整理し、それぞれの対応方針を有している企業はほとんどないといえます。

何故、クレーム対応方針を決める必要があるのでしょうか。
それは、クレームには法的に白黒決めることが難しい事案が多く、そもそも当該クレームの法的な正当性の判断が難しいので事前にある程度類型化しておくということもあります。しかし、最大の理由は、クレームは法的に認められない非法的クレームがほとんどであって、非法的クレームについて、法的根拠がないために全て拒絶していたのでは企業活動が回らないという実態があるためです。

すなわち、法的理由があるクレームのみに対応するとすれば、「サービスの悪い企業」として、当該企業に対するレピュテーションは低下して企業活動は停滞します。しかし、だからといって法的な正当性の有無にかかわらず「お客様は神様」だからという別次元の不合理な論理に基づいて、不当・違法なクレームに応じることもまた企業文化を腐らせ、従業員のモチベーションを下げます。
面倒だからという理由で声の大きい悪質クレーマーの要求には応じる等ということになれば、以上の弊害はより顕著となります。

そこで、企業のクレーム対応方針が必要なのです。企業が当該企業の理念・企業文化に基づいて一貫したクレーム対応をすることで、従業員のモチベーションは勿論、企業に対するレピュテーションの問題も生じにくくなります。
すなわち、当該企業の株主や従業員といった関係者のみならず、社会一般に対しても「あの企業は~という考え方だから、~というクレームに対しては一律~という対応をするのだ」「その対応こそ、あの企業らしい」というメッセージが伝わることで、従業員のモチベーション維持のみならず、社会からの信頼も獲得しやすいからです。

例えば、情報商材を販売している会社の中には、「内容に満足いただけなければ30日間は全額返金保証」という制度を設けている企業があります。
書籍であっても情報商材であっても、通常、購入した情報の内容が満足できなかったから返金してほしい等という請求は、当該商品の宣伝広告に明確な虚偽表示があったような場合は別としてクレームとして捉えた場合にその内容が法的に不当であることは明らかです。
例えば、飲食店であった場合に、「美味しくなかったから料金は払わない」というクレームが不当であることは一見して明らかかと思いますが、上記クレームはそれと同内容といえます。

しかし、当該企業は企業の方針として(マーケティングとして有用であるのが本当の理由ではありますが)返金保証という制度を設けています。

当該企業の事例は極端ではありますが、クレーム対応についての方針の一例と捉えることができます。

少なくとも、このように方針が決まっていることによって、この事例でいえば「購入した商材の内容に不満があったのでお金を返してほしい」という一見無茶苦茶な要求に対応する従業員もストレスを感じることはありませんし、企業として対応がぶれることもありません。
なぜなら、当該クレームに対してどのように対応するべきかを、そもそも考える必要もなければ、クレーマーとの間の交渉をする必要もないからです(マーケティングの観点から、理由についてアンケートをとることはありますが、それは別の話です)。

他方、飲食店において、私語厳禁としていたり、子供の入店禁止としている店舗があります。その方針の当否は兎も角、それらの企業の従業員は、自社のポリシーとして決定した方針である以上、当該方針に対してどのようなクレームがあろうとも(食事は会話を楽しむものだ、子供を入店させないとはけしからん等々)、少なくともクレーム対応方針に迷うことはありません。

このように、クレームが発生した場合に、その類型に応じて企業としての対応方針を決定し、徹底することは、クレーム対応方針の重要な基本ということがいえます。

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