クレーム対応を行う企業が知っておくべき基本的ルール・考え方

昨今、クレーム・カスタマーハラスメントの問題が社会問題化しています。多くの企業が、従来では考えられなかった悪質なクレームに悩まされており、企業の生産性の低下のみならず、従業員のモチベーション低下・従業員の健康被害まで生じるという深刻な事態に陥っています。

クレームの内容も様々ですが、昨今問題となっているような悪質クレームについては、冷静に考えれば企業として要求に応じる必要のないことが明らかな不当な請求も少なくありません。そうであるにもかかわらず、何故、多くの企業が悪質クレーム対応に悩まされ、支払う必要のな(支払うべきでない)各種支出(クレーマーに対する各種支払い含め)を強いられているのでしょうか。

様々な理由が考えられますが、何より、企業においてクレーム対応における基本的ルール・考え方が理解・共有されていないことが一番の理由であるといえます。そこで、以下ではクレーム対応の基本的ルール・考え方についてご説明します。

まず、大前提として、クレーム対応については明確に各企業における方針を定め、当該方針に従って対応するべきであって、クレーム対応を現場従業員の裁量に任せないということです。

従業員の裁量や度量にクレーム対応を任せるということは、クレーム対応を運任せにすることに等しいです。なぜなら、現場従業員はクレーム対応について専門的な訓練を受けているわけではなく、現場従業員からすればクレーム対応は好ましい業務ではないうえに多くの場合評価の対象とならないことが多いため、クレーム対応に対するモチベーションが低く、その対応が場当たり的且つ雑になりがちであるためです。

次に、クレーム対応方針の決定にあたっては、当該クレームが最終的にどうなるか(言い換えれば、裁判になったら請求が認められるか)という問題と、自社のクレーム対応としてどのように対応するかという問題を分けて考え、それぞれのリスクを分析した上で対応方針を決定するということです。この場合におけるリスクには、損害賠償といった法的リスクに限らず、レピュテーションリスク等の非法的リスクも含みます。総合的なリスク判断によって、当該クレームに対して応じる、応じないといった大きな方針を決定するのです。

そして、現場従業員が企業のクレーム対応方針に従ってクレーム対応を行うことができるよう、クレーム対応方針のみならず各従業員のクレーム対応における役割について周知徹底することも重要です。例えば、クレームについて最終的な処理を行うことが期待されていない従業員については、クレーム対応の仕方ではなく、対応責任者である上司等に事案を引き継ぐことにフォーカスして教育・研修を行うのです。

すなわち、クレーム・カスタマーハラスメント対応においては、どのように対応方針を決定するか、当該方針に基づいて誰がクレームを処理するか、クレーム処理を役割として与えられてはいないがクレーム主体と直接やり取りが発生せざるを得ない現場従業員についてどのようにクレーム対応させるか、という問題に分けて考えるのが、クレーム対応を行う企業が知っておくべき基本的ルール・考え方となります。

このように、クレーム対応における役割分担を明確にしておくことで、企業として統一的なクレーム対応ができるというのみならず、本来想定されていない役割を担った従業員の不手際によって二次クレームが発生したり、不必要な炎上が発生することを避けることができます。

そして、そのような考え方は、自社で対応するべきクレーム事案とそうでない事案との見極めという観点でも重要です。すなわち、クレームを述べている主体の中には、明らかに悪意・侵害意図をもって企業に接してくる者がおり、そのような侵害者に対して企業が行うべきことは、サービスではなく排除・防衛です。そして、顧客サービスの観点から訓練されている従業員であっても、侵害者に対する対応は訓練されていないのが通常ですから、侵害者への対応は専門家、すなわち弁護士による対応をするのが事案解決という観点からは望ましいのです。

すなわち、クレーム発生時において、当該クレームは誰が対応する問題であるか(自分は当該クレームを処理する必要があるのか)、自分が対応する必要のないクレームであるとして誰に引き継ぐか、クレーム主体に対しては上長への引継ぎについて(少し待っていてもらうことについて)どのように説明するか、という形で対応方針について分析して検討することが肝要なのです。

以上の通り、クレーム対応を行う企業が知っておくべき基本的ルール・考え方としては、クレームの内容・主体に応じた臨機応変な役割分担という発想ということができます。

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