クレーム対応によるストレスから従業員を守る組織づくり

クレーマー・カスタマーハラスメントによるストレスに従業員を曝し続けておくことは、従業員の心身の健康を害することは明らかで、このような事態を放置しておくことにより、使用者は従業員に対する安全配慮義務・健康配慮義務の違反の責を負うこととなります。

そこで、使用者としては、いかにクレーム対応によるストレスから従業員を守る組織づくりをするかという点が重要となります。

まず、組織づくりの前提となる考え方として、重要な点が2点あります。

一つは、「お客様は神様」という我が国固有の考え方からの脱却です。カスタマーハラスメントを行うような者は、もはや顧客ではなく企業に対する違法な侵害者であって、排除・防衛の対象として捉えることです。そして、この考え方をとるための更なる大前提となるのが、組織としての「お客様」と「クレーマー」とを峻別する明確な判断基準です。

もう一つは、良い意味で、従業員に対する過度な期待をしないということです。そもそも、カスタマーセンターやクレーム対応部署の従業員でもない限り(場合によっては当該部署の従業員であっても)、従業員の認識として賃金の対価として悪質なクレーマー対応が入っているという場合は少なくありません。また、クレーム対応の業務内容が自らの評価に反映されることも多くはないため(企業として、人事評価の基準としてクレーム対応の在り方を加えている企業は少ないと思います)、当然ながら従業員のクレーム対応は消極的且つ場当たり的になりがちです。

しかし、それはそのような対応をする従業員が悪いのではなく、クレーム対応に対する意欲も能力もない従業員にクレーム対応をさせる(厳密にいえば「対応しなくてよいという組織体制を組んでいない」)使用者が悪いのです。

以上の考え方を前提として、どのようにしてクレーム対応のための組織づくりをするか。
まず、クレームを直接受ける従業員(小売店舗であれば売場の従業員、飲食店であれば接客する従業員等)が、初動対応の際にいかなるクレームであれば対応してよいか、いかなるクレームであれば自らは一切の判断をせずに上長に引き継ぐかということを各企業の実態に合わせて決定します。

例えば、飲食店舗において、「食事に髪の毛が入っていた」というクレームがあった場合、①「新しいものと交換してくれ」②「代金を無料にしてくれ」③「迷惑料(又は慰謝料)を払ってくれ」という要望が想定されます。
この場合に、企業として①~③のいずれの要望に対してどのような対応をするかという対応方針の最終決定の問題と、誰がそれを決定するか(決定してよいか)という問題を明確に分けておくということです。

一つの例としては、接客のアルバイト従業員であれば①は判断してよいが、②③が出た時点で店長、またはスーパーバイザー、本部に連絡引継ぎをすることを義務付けるということです。
すなわち、髪の毛が入った(という主張が真実であるかどうかは別として)という主張がなされている場合に、別の食材を作り直すという判断を都度店長(又は本社、社員であっても同様)持ち帰らせていたのでは飲食店の現場が回りませんし、場合によっては無用な二次クレームを発生させます。他方、接客のアルバイト従業員に代金を無料にするであるとか、迷惑料を支払うという約束をさせるわけにはいきません。

このように、発生する事象毎に、判断してよいこととダメなことを明確にし、ダメな場合にどのように引継ぎをするかという点も明確に決めておくのです。

そして、なぜこのような体制(ルール作り)が必要かといえば、従業員をストレスから解放するという理由があります。従業員としては、難クレームが発生した場合に、相手から罵倒され詰め寄られることもストレスとなりますが、そもそもクレーム対応方針を「判断すること」がストレスとなり、判断をすること自体がその能力を超えている場合が多いからです。

そこで、企業の実態に合わせて、初期対応にあたる従業員の対応内容を、場合分けして具体的且つ明確に決めておくことが重要となります。
これにより、企業としては従業員が想定外の対応をするという事態を避けることができ、従業員としても(良い意味で)言われたことだけやっておけば叱責されたり、悪い評価をされるということがないため安心してクレーム対応ができるのです。

以上が、クレーム対応によるストレスから従業員を守る組織づくりの基本となります。

ページトップへ