クレーム対応が従業員に対して与える影響

クレーム対応が従業員に対して与える悪影響は小さくありません。報道によれば、2018年8月、UAゼンセンが厚生労働相に対し、消費者からの悪質クレームへの対策を求める170万筆の署名を提出しました。

昨今、業務を原因とする従業員のメンタル疾患が多くみられますが、その原因として一般的に認識されている長時間労働といった過重労働に加え、業務上の多大なストレス事由があります。

そして、顧客からの常軌を逸したクレーム・カスタマーハラスメントが従業員のストレス事由となっていることはあらゆる業種で多く見られます。

多くの場合、従業員は顧客からの常軌を逸した嫌がらせを受けることを賃金の対価としては認識していません。

なぜなら、クレーム対応について企業の方針をはじめとして明確な対応方法を示されていることは少ないうえ(「お客様は神様」という日本特有の思想によって相手を問わずとことん丁寧に対応するという不条理な方針を押し付けられている場合はありますが)、クレーム対応を行ったことが人事評価に反映されることも少ないからです。

そのため、従業員からすれば、悪質クレーマーやカスタマーハラスメントに遭遇した場合、当該事態を「運の悪い事故」として認識し、とにかくその場を難なく収めたいと考えます。
しかし、悪質クレーマー・モンスタークレーマーは、言い掛かりをつけてくる違法な侵害者であり、従業員の言葉尻や些細な態度の問題点に言い掛かりをつけることが目的化している場合も多く、従業員らがその場を収めるべく行った適当な対応を許しません。また、その場を収めようとする従業員に不用意な約束をさせることで、企業から不当に経済的価値を得ようとする場合も少なくありません。

他方、多くの企業が「(神様である)お客様を怒らせた」として、クレーム内容の正当性・合理性を鑑みることなく、従業員に対して手放し且つ無制限に丁寧な対応を求めます。

そのため、従業員は違法な侵害者と不合理な要求を甘受することを求める雇用主との間の板挟みになって苦しむのです。

その結果、従業員は精神を病み、結果として使用者である企業に対する忠誠心は下がるうえ、場合によっては休職・退職することによって企業から去っていくのです。
以上の通り、クレーム対応が従業員に対して与える悪影響は計り知れません。

人材不足が深刻化している昨今、以上のような不合理な事態によって貴重な人材の離職を招くことは企業にとって多大な損失となります。

企業としては、企業防衛という観点のみならず、人材戦略の一環としてクレーム対応体制の整備を徹底するべきなのです。

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