鉄道会社に対する損害賠償請求控訴事件

裁判年月日

東京高等裁判所H15611日判決

 概要

 重度の身体障害者が車椅子で電車を利用して移動中、駅ホームで介助をしていた同駅員が車椅子のブレーキを掛けないで一時放置し、車椅子が動き出したことにより、恐怖を味わったとして慰謝料を請求した事案。

クレーム内容

 被控訴人は介助者なしで手押し型の車いすに乗り、電車での移動中、駅構内において控訴人の駅員Bの介助を受けたが、Bは車いすのブレーキをかけずにホームに一時放置した。そのため車いすが線路方向に向かって動き出し、被控訴人は死に直面する恐怖を味わわさせられた。また改札外においてもBは車いすのブレーキをかけずに放置したため、車いすが動き出し、被控訴人は強い不安を感じさせられる精神的苦痛を被った。 

会社側の対応

 控訴人は被控訴人から介助者なしで電車移動することの連絡を受け、被控訴人に対し所要の介助などの対応をすることにした。

本件当時、控訴人の駅員マニュアルでは車いすを利用している乗客から離れるときは、車いすのブレーキをかけなければならない旨記載されていた。しかしBは、常にその必要があるとは考えておらず、車いすの乗客には介助者が同行しておらず、かつ手押し型の車いすである場合には、乗客自らで車いすのブレーキをかけることができるものと思っており、その車いすの乗客から特に申出がある場合を除いては、その傍らを離れるときにも、その車いすのブレーキをかける必要はないと判断していた。

 裁判結果

 被控訴人の車いすが動いた距離、時間Bがその傍らを離れた動機その他関連する諸事情一切を勘案すると、被控訴人に生じた精神的苦痛に対する慰謝料の額は、3万円と認めるのが相当である。

コメント

 事業の性質上、利用者の生命に危険を生じさせることのあり得る事業者が、その注意義務を怠ったために慰謝料を負う事例は少なくありません。

現実的な損害が発生していないからという理由だけで、消費者からの請求内容の当否を検討しないという対応は事案を紛糾させるリスクがあるといえます。

「死の恐怖を味わった」といった極限のストレスについての申告があった場合、事案によっては一定の解決金の支払い等によって事案解決を図るべき場合もある点に注意が必要です。

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