中古車販売(ECサイト)に関する損害賠償請求事件

裁判年月日

東京地方裁判所令和2年5月21日判決

概要

 被告Xが開設・運営する中古車自動販売サイトにおいて、被告Yが出品した中古車両を購入した原告が①被告Yに対し、本件車両には出品票の記載とは異なる損傷等の瑕疵があったと主張して、瑕疵担保責任に基づく損害賠償として、本件車両の価値下落分の損害142万6000円およびこれに対する遅延損害金の支払いを求めるとともに、被告Yは前記損傷等を知りながら、これを原告に告知しなかったと主張して、告知義務違反の債務不履行に基づく損害賠償として、本件車両の転売利益に相当する64万円及びこれに対する前記同内容の遅延損害金の支払を求め、また②被告Xに対し、商法549条に基づく仲立人の介入義務の履行として、前記損害合計206万6000円及びこれに対する前記同内容の遅延損害金について被告Yとの連帯支払を求めるとともに、被告Xは本件車両に関するクレーム申告に迅速誠実に対応しなかったなどと主張して、前記中古自動車販売サイト利用契約上の債務不履行に基づく損害賠償として、期間経過による本件車両の価値下落分等の損害合計266万円およびこれに対する前記同内容の遅延損害金の支払いを求めた事案。
 なお、被告Yに対する請求については、改正前民法の瑕疵担保責任を認め、97万6900円の損害賠償を命じている。

クレーム内容


 原告は本件車両が納車された後、直ちに本件車両を検査し損傷があることを発見したため、翌日には被告Xに対し、クレームを申し立てた。また、当初送付したクレーム申告書には、本件車両が事故車であるとの記載はないものの、クレーム申告期限当日には、事故車である旨を被告Xの担当者であるDに伝えて調査を求めているから、クレーム申告期限内に事故車であるとの申告を追完したといえる。また、本件車両のように購入前の損傷による修復歴車であることが明白な場合にまで二重申告を理由にクレーム裁定を拒むのは不当である。
それにもかかわらず、被告Xはクレーム申請を却下する書面を原告にFAX送信するまで正式な回答をしなかった。したがって、被告Xにおいて、前記の迅速誠実処理義務に違反する債務不履行があったことは明白である。

会社側の対応


 被告Xがサービスの利用に関して定めたサービスクレーム裁定細則には、クレームの申請は車両1台につき1回に限ると定められており、本件クレーム申告書のひな型にも、「申告ガイド」ないし「クレーム対応について」として、不動文字で「クレーム申告は1台の車両につき1回限りとなります。(追加での申告は受けられません。)」、「クレーム申告期限を過ぎた場合、いかなる申告も「お問合せ」の範囲内での対応となります。(ノークレーム扱いとなります。)」などと記載されている。原告は傷やサビ等についてのクレーム申告をしたものの、事故車であることを含め、本件売買のキャンセル対象等となり得るような瑕疵については、いかなる方法によっても申告期限内にクレーム申告をしていない。被告Xの担当者は原告からのクレーム申告に対し、本件検査細則に基づき、画像による確認を行ったうえで、ノークレームとの裁定結果を口頭及び文書によって通知している。
したがって、被告Xが原告の主張する迅速誠実処理義務に違反した事実はなく、債務不履行責任を負う余地はない。

裁判結果


 被告Xは、本件規約や本件検査細則等を定めることによって、出品会員及び落札会員の双方に出品・落札に伴う一定の義務を課しているほか、出品票作成のシステムを提供したり、売買契約の締結に際して在庫及び売却意思の確認をするなどしているが、これらはいずれも本件サイトないしサービス全体のシステム構築であったり、契約に際しての最終確認作業にすぎないものであり、これらの行為をしていることをもって、他人間の法律行為の成立に尽力しているものと評価することは困難である。
 また、被告Xは、サービスにおいて、落札会員の申込みにより値下げ交渉サービスを行うものとされているが、売買に至る一連の経過において、このような形での関与が常に求められているものではなく、特に、本件においては、原告からの値下げ交渉の申込みはなく、同被告は本件売買の価格形成に何ら関与していないから、同被告が本件売買契約の成立に向けて尽力する事実行為を行ったものとは認められない。
 したがって,被告Xは、本件売買における仲立人であるとは認められず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
 よって、被告Xが本件売買に関して商法549条の介入義務を負うとは認められない。
また、本件規約や同規約第23条に基づくサービスクレーム裁定規定細則には、落札会員からのクレーム申告に対する被告Xの処理期間に関する定めはなく、同被告において、契約上の債務として、原告の主張するような落札会員からのクレーム申告に可及的速やかに誠実に対応し、損害の拡大を防止するべき義務を負っているものと解することはできない。
本件車両のクレーム申告期限は平成29年4月3日日であり、クレームの申請は車両1台につき1回に限られているところ、原告担当者が前記申告期限内に行ったクレームは、右ドアミラー及び右フロントピラーのキズ等、アンダーカバー破損、フロントガラスの飛石並びに右フロント・ロア・アームの部品欠けのみであり、原告は所定の期間内に本件車両が事故車であるとの申告はしていないこと、被告X担当者は前記クレーム申告を前提に写真確認をするなどした上で、原告担当者に対し、クレーム対象外である旨文書で回答していることが認められ、これらの経過に照らせば、被告Xないし担当者の対応が、原告の主張するクレーム申告に対する迅速誠実処理義務に違反するとはたやすく認めがたい。
以上から、被告Xに対する請求にはいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却する。

コメント


本件では、中古自動車流通プラットフォームサイトを運営する被告において、サイト上で成立した売買対象物に法律上の問題(改正前民法の瑕疵担保責任)があった場合に、サイト運営者である被告が法的責任を負うかが争われた事案です。

 本件で争点となったのは、サイト運営者が商法で規定する仲立人に該当するかという点、サイト運営者として損害拡大義務やクレームについての迅速誠実処理義務違反を理由に損害賠償義務を負うかという点です。

 この点、本件ではいずれの義務についても結論として否定されましたが、いかなる場合にもサイト運営者の責任が否定されると判示したわけではなく、一定の場合にはサイト運営者の責任が生じる余地を残したとも解釈できるという意味で、売買仲介サイトを運営する事業者にとっては参考となる裁判例であるといえます。

 まず、サイト運営者が商法上の仲立人に該当するかという点については、サイト内で提供されているサービス内容を詳細に認定したうえ、被告が提供しているサービスが「サービス全体のシステム構築であったり、契約に際しての最終確認作業にすぎないものであり、これらの行為をしていることをもって、他人間の法律行為の成立に尽力しているものと評価することは困難」、「本件売買の価格形成に何ら関与していないから、同被告が本件売買契約の成立に向けて尽力する事実行為を行ったものとは認められない」として仲立人性を否定しました。

このことは、裏を返せばサイトにおけるサービス内容として、他人間の法律行為の成立に尽力していると評価できる行為がなされている場合には、仲立人性が肯定されるということがいえます。

仲立人性が肯定されると、場合によっては出品者と購入者間の紛争に一々巻き込まれることになり、到底、売買仲介サイトの運営は困難となります。
そのため、サービス設計にあたっては、仲立人であると評価されるようなサービス内容を含めないようにすることが肝要となります。

また、サイト運営者として損害拡大義務やクレームについての迅速誠実処理義務については、規約中にクレーム処理期間についての規定がないこと、クレーム申告期限を設けていたこと、被告がこれらの規定内容に従って処理をしていることを理由に義務の存在を否定しています。

このことは、サイト運営における利用規約や約款の重要性を現わしているといえます。
サイト運営会社において、サイト利用者との間で紛争となった場合には、利用規約・約款の規定が判断の拠り所となります。そのため、紛争予防という観点からサイトの利用規約を充実させることは重要といえます。

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