スーツケース販売店に対する損害賠償請求事件

裁判年月日

東京地方裁判所H24年10月5日判決

概要

 原告が被告Y2社にてスーツケースを購入した際、従業員であるY1が床に置いてあった原告のパソコンケースを足で蹴飛ばして倒した事故により、ケース及びパソコンが損傷したが、被告Y社の態度に誠意がないため、精神的苦痛を被ったとして、原告が被告らに対し、損害賠償と謝罪を求めた事案。

クレーム内容

 原告はスーツケースの品定めをする際にパソコンケースを床上に立てて置いていた。

声をかけられた被告Y1が展示台をもって来た際に、原告が突然声を上げ、Y1がパソコンケースを倒したために壊れたと主張、弁償を求めた。

その後、原告は被告Y2社の本社に電話をかけ、従業員の対応が悪いなどと伝えた後、警察を訪れ、器物損壊罪で被害届を提出しようとした。

さらに被告Y2社を反社会的な会社として広く新聞やインターネット等において通知する旨述べるとともに、執行役による直接の謝罪及びホームページにおける謝罪広告の要求、慰謝料50万円の支払などを求める通知書を送付した。

 これに対し、被告ら訴訟代理人が要求には応じられないこととその理由を回答したところ、原告はさらに反論し、代表取締役による直接の謝罪、主要全国紙1面及びホームページにおける1か月間の謝罪広告、慰謝料60万円の支払を要求した。

店側の対応等

 原告は「飛行機に搭乗しなければならないので、その場でパソコンが壊れているかは確認できない」とし、被告Y1に名刺の裏に「私が壊した」と一筆書くよう求めたため、被告Yは「パソコンケース破損、中身確認の上連絡」と手書きした。

1週間後、原告が来店し、パソコンケースだけでなく、ノートパソコンも壊れており、液晶画面に線が表示される損傷が生じたと述べた際に、被告Y1の上司が点検のためにノートパソコンを預かりたいと述べたのに対して、代替機を用意すること、代替機が故障した場合も原告は責任を取らないとの条件付きで貸与すると述べたため、被告Y2社は原告のノートパソコンを預かることはしなかった。

判決要旨

 被告Y1の足がパソコンケースにあたって同ケースが倒れたとの事実は一応これを認定することができるものの、これによってノートケース及びパソコンケースに損傷が生じたことは認めるに足りないから、これを前提とする原告の請求はいずれも理由がないとして、原告の請求を棄却する。

コメント

本件裁判例においては、スタッフの足がパソコンケースにあたったという原告主張の事実関係が認定されながら、

  • パソコン損傷が事故発生前にあったかどうかが確認されていない(事故前からあった損傷の可能性が否定できない)こと
  • パソコンの損傷について、事故発生時から1週間経過後に主張されていること
  • 当該パソコンが7年前に購入されたものであり相当回数の使用が窺われること
  • 原告の謝罪要求や慰謝料の要求が課題であるうえに要求が徐々にエスカレートしていること

を理由に本件事故によって原告主張の損害が生じたことを認定することは困難としています。

 本件裁判例は、クレーム対応の実務において参考となる要素を多く含んでいます。

まず、事故発生直後の証拠保全の重要性、クレーム主体の要求が過大であることと要求内容が変遷していることが請求棄却の理由の一つとなり得ること、何より、店側の不手際(本件ではパソコンケースを蹴った事実)があったとしても直ちに損害賠償請求権が認められるものではないことです。

日常的な店舗運営においてスタッフの不手際・ミスは避けられません。そのような不手際があった場合にも、過剰な要求に対しては慌てず、企業のクレーム対応方針に沿った一貫した対応をすることが肝要です。

他方、本件裁判例では大きな事情とはなりませんでしたが、スタッフが現場で一筆書かされている事情は、場合によっては企業にとって大きなリスクとなり得ます。このような事態を避けるためには、各企業においてスタッフ対応についての役割を決め、対応マニュアルを準備しておくことが肝要です。

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