結婚相談所に対する損害賠償請求事件

裁判年月日

東京地方裁判所令和元年1213日判決

 概要

 原告が結婚相談所を営む被告との間で、ベトナム人女性と成婚することを内容とする契約を締結したが、被告が一方的にベトナム人女性との成婚を破棄したなどと主張して、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、原告が支出した交通費その他の費用及び精神的慰謝料の支払いを求めた事案。 

クレーム内容

 原告の提供するプランは、いずれも最終的な成婚まで進むことが契約の内容である。その過程で被告から一方的にそのプランを放棄されることは、これまで行った行為とそれに伴う時間、支払ってきた金額全てを無駄にされるに等しい。ビデオチャットや現地でのお見合いは、結婚をする過程で行う行為であり、それを目的として金銭を支払ったわけではないからである。

今回の件については、原告と紹介された相手方女性は、双方今後交際を行って良いという判断を下しており、婚姻に向けた合意を行うことは被告についても了承済であったが、被告は当事者の意思を尊重することなく一方的に破壊した。以上の通り、被告が原告とベトナム人女性との成婚に向けた話を一方的に破棄した行為は、債務不履行又は不法行為にあたる。

また、被告が一方的に仲介を破棄した際に送られてきたメッセージ内容についても、被告による原告への一方的価値観により原告を非難する内容であり、原告はこれによって甚大な精神的苦痛を被った。 

会社側の対応

 原告は被告代表者に対し、相手方女性の整形の有無についての質問やアオザイを着ている写真を求める旨のメッセージを送信しており、被告が相手方女性に対し、原告からの要望を伝えた結果、相手方女性は被告代表者に対し、「そのような気遣いのない質問をする男性は好きじゃないし、アオザイを着ている写真が欲しいとか気持ちが悪いので断ってください。」と伝えてきた。

被告代表者は、原告が心身共に不安定な状態にあることを危惧し、相手方女性からの返答をそのまま伝えることなく、被告以外の結婚相談所におけるサービスを利用する際に今回の経験が生かせればとの気遣いから、相手方女性との成婚の話はお断りする旨の送信したものであって、原告を傷付ける意図は全くなかった。

 被告は、原告に対し、ビデオチャット当日に被告のウエブサイトに記載されているイケメン割引を適用したことを伝えており、一切の金銭も受領していない。ベトナムでのお見合い当日に7万円を原告から受領したこともない。

また、原告は、複数の友人との旅行とのためにベトナムへ出向いており、被告のサービスはそのついでに受けているにすぎない。原告が主張する渡航費用は、被告のサービスを利用するために支払ったものではない。 

裁判結果

 原告被告間においては、被告が原告に対して結婚相手となり得るベトナム人女性を紹介する旨の合意が成立したと認められるところ、結婚や交際に至るためには男女双方の合意が前提となることや、被告が利用者から報酬を受け取るのは婚姻がほぼ確定となった段階であることに照らせば、上記の原告及び被告間における合意には、被告が負うべき義務として、原告とベトナム人女性とを交際及び婚姻させることまでを含むものではないと解される。

なお、被告のウェブサイトには「成婚保証」との表記があるが、その後に続けて「結婚が決まるまでは一切の費用の請求をしません!※交通費、通訳、システム別費は別」と記載されていることからすれば、上記成婚保証の内容は、あくまでも成婚に至らない場合は、実費を除き報酬を利用者に請求しないというものであると認められる。

原告がお見合いをしたベトナム人女性との婚姻に至らなかったのは、原告からの質問や要望に対してベトナム人女性が気分を害したからであると認められ、このことを被告の責任に帰することはできない。また、相手方の気分を害するような質問であったとしても、顧客である原告からの要望を相手方女性に伝えることは、被告にとってやむを得ない対応であったといえる。原告から被告代表者に対し、聞き方に関する指示があったわけでもなく、被告から相手方女性への伝え方が社会的相当性を逸脱していたとも認められず、原告とベトナム人女性とが交際及び婚姻に至らなかったことについて、被告に責任があるとはいえず、被告が一方的に破談にしたと評価することもできない。

また、被告代表者が原告に送信したメッセージについても、原告を非難する趣旨が含まれているとしても、社会的相当性を逸脱した表現が用いられているとまではいえないことを併せ考慮すれば、被告代表者が上記メッセージを送信したこと自体が不法行為又は債務不履行に該当するとは認められない。

 以上によれば、被告が原告に対してベトナム人女性との成婚を断ったことが債務不履行又は不法行為に該当するとは認められず、原告の請求には理由がないから、これを棄却とする。 

コメント

 本件判決は、被告の事業者が原告に対して契約上いかなる義務を負っていたかという点に関し、原告とベトナム人女性とを交際及び婚姻させることまでを含むものではないと認定したうえ、契約上の義務違反を理由とする損害賠償請求を棄却しています。

本件のように、ある一定のサービスの提供を予定された事業においては、顧客が想定するサービス内容と事業者が想定するそれとが一致しない事態が往々にして起こり得ます。例えば、結果の実現が契約上予定されたサービス内容なのか、結果の実現に向けて全力でサポートするのがサービス内容なのかによって、何をもって契約違反となるかという点が異なってきます。

虚偽・誇大な広告表現は論外ですが、いかなるサービス内容であるのかという点について顧客と事業者の認識に齟齬が出ないよう、契約書、利用規約は勿論のこと、ホームページ上のサービス案内についても正確に表記することが無用な紛争を防止するという観点から重要であるといえます。

 

 

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