裁判年月日

東京地裁平成27年9月28日判決

概要

約8年間にわたり、被告の設置する病院の精神・神経科に通院し主治医からADHD等の治療を受けていた原告が、被告の診療拒否を理由とする損害賠償請求をした事案

原告が病院の窓口で不満を繰り返したり、医師の承諾なく相談窓口担当者を診察室に同席させようとしたりするなどのトラブルが発生したことを受け、病院側は主治医による診療を行わないことや、他の医師による診療も特定の条件を満たさない限り受け付けないとする基本方針文書を作成し、実質的に診療を拒絶するに至った

クレーム内容(原告の主張)

病院が正当な理由なく継続的な診療を拒絶したことは、診療契約上の債務不履行にあたる

裁判結果

請求棄却

前提として、病院が基本方針文書を作成した時点で、原告に対する今後の診療に応じない姿勢を明確にしたとして、「診療拒絶」の事実を認定した。

そのうえで、裁判所は、原告の従来の言動により医師・病院との間の信頼関係が失われていたとして、債務不履行には該当しないと判断した。

コメント

カスタマーハラスメントや不当クレーム、迷惑行為が発生した場合に、診療を拒絶したいと考える医療機関は多いところかと思います。

この場合に必ず問題になるのが、医師法第19条第1項の応召義務です。医療機関としては、どの程度の迷惑行為があれば診療拒否をしても問題ないのか、応召義務に違反しないのか判断ができず、どのように対応するべきかというご相談は非常に多くいただくところです。

前提として、応召義務が医師の患者に対する義務なのか、国に対する義務なのかという議論があります。

医師の応招義務を定めた医師法19条1項が患者保護の側面をも有することから、患者は医師が正当な理由を有さない限りその求めた診療を拒否されることがなく診察を受け得るとの法的利益を有すると解するのが相当とした裁判例があり(神戸地裁平成4年6月30日判決)、正当な理由のない診療拒否については応召義務違反として損害賠償の対象となるリスクがあります。

そこで、医師法第19条第1項は、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」と規定しているところ、どのような事実関係があれば診療拒否に「正当な事由」があるかが問題となります。

この点、令和元年12月25日付厚生労働省医政局長発出の医政発1225第4号によれば、どのような場合に患者を診療しないことが応招義務に反するかについて、最も重要な考慮要素は患者について緊急対応が必要であるかという考え方を基本として、診療を求められた時間帯や医療機関と患者の信頼関係も考慮要素とします。

そのうえで、診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合には、新たな診療を行わないことが正当化されると記載されています。

本裁判例も、以上の考え方と同様の考え方に基づいて、診療拒否を正当なものと判断したものといえます。

診療の過程や病院内において、カスタマーハラスメントに該当するような行為があった場合、当該患者との信頼関係は喪失していると判断できる場合が多いかと思います。

医療機関として、カスタマーハラスメントがあった場合には応召義務を理由として漫然と診療継続するのではなく、毅然と診療拒否することを検討するべきかと思います。特に、対象の医師が勤務医師である場合、当該医師に対する安全配慮義務の観点からもカスタマーハラスメントに対しては毅然とした対応が必要となります。

なお、紛争防止の観点や、後に訴訟になった場合に備え、カスタマーハラスメントや不当クレームがあった場合に直ちに診療拒否をするのではなく、当該患者に警告するなどして態度を改める機会を与えるのが有効な場合が多いです。もっとも、暴力行為があるなど事態が切迫している場合には警告を待たずに診療拒否もあり得ます。

具体的な判断に迷った際には当事務所にご相談ください。

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