裁判年月日

東京地裁平成19年4月9日判決

概要

「健康づくり健診」において血液検査を受けた原告が、採決後に採血部位に変色が生じ、左腕の痛み、しびれ、変色、腫れ等が本件採血後に生じて左上肢末梢神経損傷との診断を受けたことから、採決をした医師の注意義務違反であるとして損害賠償請求をした事例。

クレーム内容

採決のために左上肢末梢神経損傷となり、その後カウザルギーになってしまった。

裁判結果

医師の採決によって神経損傷が生じたことを認定したうえで、「医師が選択した血管、刺入箇所に不適切な点はなく、内側前腕皮神経が肘正中皮静脈の皮膚側を走向しているような場合などは、適切な手技での採血によっても、神経損傷が生じ得るのであって、事前に認識することはできないことが認められるから、そのような場合は、仮に神経損傷が生じたとしても不可避な合併症と理解される」として、請求を棄却した。

コメント

採血に関するトラブルはあらゆる診療科において生じ得るトラブルであり、裁判にまで至らずとも多くの病院で問題となります。 本件では請求が棄却されておりますが、損害賠償請求を認容した裁判例もあり(高松高裁平成15年3月14日判決)、安易に考えることのできないインシデントといえます。 高松高裁平成15年3月14日判決においては「肘窩の尺側皮静脈に針を刺す場合、深く刺すと正中神経を傷つけることがあるため、適切な深さに刺すよう心がけるべきことが記載されており、このことは採血に従事するものにとっては基本的な注意事項の一つ」としたうえ、被告看護師には「注射針を深く刺して正中神経を傷つけないよう、注射針を適切に操作するべき注意義務・・・に違反し,正中神経を傷つけた過失がある」と認定しました。 本判決と高松高裁判決とは、事案として施術者の行為態様・過失に違いはないと思われ、同じ状況下においても裁判所によって判断が分かれるところといえます。 そのため、病院としては事案発生時には「避けられない事故である」として安易に処理せず、紛争に発展しないように対応する必要があります。 この点、患者からすれば、採血は診断や治療の前提行為として「それほど難しくない処置」と捉えていることもあり、ここにミスがあると「軽率なミスによる医療事故」と捉えられて、クレームやカスタマーハラスメントが発生しやすいといえます。 そのため、医療機関としては万が一事故が発生した場合の対応について、クレーム対応・カスタマーハラスメント対応について十分な準備をする必要があります。 対処法としては、患者から神経損傷の訴えがあった場合、実際に神経損傷が生じているかの診断をすると共に、施術をした者に対する施術時の事実関係についてのヒアリングを含め、まずは事実関係の確認を行うべきです。 事実確認の結果、神経損傷が認められ、当該損傷が施術者の採血時における過失に起因するものと認められる場合(不必要に深く刺したなど)には、紛争への発展を避けるべく示談交渉等を検討するべきです。 他方、採血事故があったからといって、現場のスタッフに対するカスタマーハラスメントを甘受する必要はありませんので、カスタマーハラスメントに発展した場合には毅然と対処するべきです。 ミスに対する対処とカスタマーハラスメントに対する対処は、分けて考えるのがポイントです。

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