裁判年月日
東京地裁平成26年5月12日判決
概要
原告である病院が過去に手術を受けた元患者である被告に対して、診療契約上の債務(診療義務、説明義務等)や損害賠償義務を負っていないことの確認を求めた事案。あわせて、被告が病院に繰り返し来院して長時間居座り、大声で不満を述べたり謝罪を要求したりして業務を妨害しているとして、病院敷地への立入り禁止および業務妨害行為の禁止も求めた事案。
クレーム内容(原告の主張)
原告には医師法に基づく応召義務があり、診療拒否に正当な理由はない。
また、過去に行った手術の説明を求めているのに説明内容が不十分であり、病院は転医義務なども負っているはずだ。
また、被告は一般患者と同じく診察予約をして来院しており、行き過ぎた行為があったとしてもそれは病院側のクレーマー扱いに起因するものである。妨害行為禁止の必要性はない。
裁判結果
一部認容
診療義務・損害賠償義務について
医療行為に過誤はなく、説明義務も履行されている。また、適切な医療行為を期待できないほどに信頼関係が破壊されていることから診療を拒否する「正当な事由」があるため、診療義務や損害賠償義務は負わない。
被告の言動には時に感情的な大声や拡声器を見せるなどの行き過ぎた面があったものの、基本的には職員の指示に従い相談室へ移動しており、業務に著しい支障が生じたとまでは認められず、法的に立入りや行為を禁止するほどの必要性はない。
コメント
まず、本裁判例は応召義務について、「原告と被告との間の信頼関係は適切な医療行為を期待できないほどに破壊されていることからすれば,原告には被告からの診察の求めを拒否する正当な事由があるというべき」として、応召義務の違反がない旨を正面から判断している点で迷惑行為を受けた場合の病院としての対応に関して参考になります。
また、本裁判例は、病院側の損害賠償義務、説明義務の違反はないとしました。また、診療義務や問診義務についても認められないとして、病院側の義務違反を主張する元患者(被告)の主張をすべて退けました。
他方、本判決は、土地への立入りや業務妨害行為の禁止を命じる必要性があるとまでは認められないとして、法的な立ち入り禁止を命じる必要性はないとしました。
しかし、被告は原告病院に10回以上訪問し、被告病院の職員はその都度1~2時間の対応を強いられたということですから、訪問行為自体がカスタマーハラスメントに該当することは明らかです。
それに加え、本判決は病院側に対し、応召義務、診療義務、説明義務などの一切の義務の存在を否定しています。また、ここまで信頼関係が喪失している中で、被告が別の傷病で改めて本件病院にかかるとも思えません。すなわち、被告が本件病院に立ち入ることを認める理由はないといえます。
本判決は、「被告が本件病院に来院した回数ないし頻度やその際の滞在時間等に照らしても,被告が本件病院に来院したことにより原告の業務の遂行に著しい支障が生じたとまで認めることはできない。」と判示しますが、明らかに実務感覚からかけ離れた判断だと思います。
この点、本判決が出された頃は、まだ「カスタマーハラスメント」という言葉も考え方も一般には浸透してなかった時期であり、裁判所としても、長時間理由もなく居座ったからといってカスタマーハラスメントに該当するという発想すらなかったのであろうと推察します。
現在においては、合理的理由のない長時間の居座りがカスタマーハラスメントに該当するという点は一般的に認識されているところですから、同様の事案があった場合には立ち入り禁止を認める判断もあり得るのではないかと考えます。
