レストランに対する損害賠償請求事件

裁判年月日

東京地方裁判所平成13227日判決 

概要

 被告らの経営するレストランで飲食後、帰り際に立ち上がった際、テーブル上のランプの火が髪に燃え移り、顔面に火傷を負った原告が、被告らに対し、安全配慮義務違反ないし不法行為を理由に損害賠償を求めた事案。 

クレーム内容

 狭いテーブル上に直火のランプを置くべきではなく、客にランプの火が燃え移らないような形状のランプを選ぶべきであったし、直火のランプをテーブル上に置くならば、テーブルを広いものとし、かつ客が席を立つ際に椅子を後ろに引けるような十分な広さを確保して、客にランプの火が燃え移らないような配置を工夫すべきであった。

また、熱傷は即座に冷やすなどの救急治療により、被害の程度を抑えることが肝心であるのに、被告らは原告の髪をタオルで叩くだけで、水をかけ続けるなどの取るべき応急処置をせず、しかも、直ちに救急車の出勤を要請すべきであったのに、救急車を手配せず、被告Aの自家用車で病院に運んだため、手当が遅れたものである。

事業者側の対応

 被告Aは原告の髪に火が燃え移ったのをすぐに発見し、近くにいた従業員2人と共にナプキンで叩いて火を消した上、直ちに氷を入れたナプキンで患部を冷やす措置を講じた。

本件レストランから病院までは駐車場に向かう時間を含んでも5分程度で到着できることを知っていたことから、救急車を呼んで病院に搬入するよりも、自家用車で原告を運んだほうが早く病院に搬入できると考え、自家用車で原告を病院に運んだ。本件レストランを出てから病院に到着するのにかかった時間は5分程度であった。 

裁判結果

 被告らが設置したテーブルの大きさがレストラン営業に殊更に不適当であったとは認められないし、ランプの大きさや置かれた位置から考えても、テーブルをより大きいものにすべきであったとまでいうことはできない。

また本件のランプは直火型ではあるが、通常の利用に従っていれば決して危険性のあるものではないし、原告はランプに火がついた状態で3時間半余りも飲食や歓談をしており、何らのクレームもなかったことからすれば、原告としても危険性を感じていなかったことは明らかである。以上によれば、本件におけるテーブルやランプの設置を非難する原告の主張は失当である。原告としては後ろにスペースがないと思い込んでいたことから、後方を確認せず、椅子を少し引いただけで立ち上がろうとしたため、瞬間的に極端な前屈みの姿勢となり、その瞬間に髪の毛がランプの火に触れて本件事故が起こったものと考えられ、不幸な自招事故というほかない。

 本件事故を現認して、被告らの取った行動は、直ちにナプキンで髪を叩いて10秒ほどで火を消し止め、かつ氷を入れたナプキンで患部を冷やし、その手当を病院に搬送するまで続けたというものであって、むしろ適切かつ迅速な措置であったというべきである。

したがって仮に原告の主張するような安全配慮義務等を被告らが負うとしても、被告らがこの義務に違反したとはいえないし、不法行為にも該当しない。 

コメント

 本件訴訟は訴額が1億円を超え、店舗側としても請求が認容されれば店舗経営に無視できない事態となり得た事案といえます。

裁判所は、被告店舗が店舗内の顧客に対して安全配慮義務を負うかという論点については明確に判示していませんが(「仮に原告の主張するような安全配慮義務等を被告らが負うとしても」としています)、店舗として利用者の生命・身体に対する安全配慮義務を負うという論理構成は十分に考えられます。

 本件では、店内の雰囲気作りのために設けられたオイルランプが事故の原因となりましたが、店舗経営においては、イメージや雰囲気を重視するあまり顧客の安全性を害する造作の設置をすることのないよう留意する必要があるといえます。

また、本件では事故発生後の店側の対処の適切さについても争われており、結果として店側の対応が適切であったと判断されています。仮に店舗で想定外の事故が発生した場合、直ちに対応できるように従業員教育をしておくことも、想定外の賠償責任を回避するためには肝要といえます。

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