化粧品版売会社に対する損害賠償請求事件

裁判年月日

東京地方裁判所H12522日判決

 概要

化粧品を購入使用して顔面等に接触性皮膚炎を生じたとする原告が化粧品の製造会社、販売会社、小売会社を相手に治療費、慰謝料等の損害賠償を求めた事案。

 クレーム内容

 化粧品のパンフレットにノンオイルと表示してあり、対面販売員もノンオイルと説明したのに、実際には成分の一つにホホバオイルを使用している。

パンフレットに「敏感なお肌の方でも大丈夫です」と記載があり、対面販売員及び本社営業員からも同様の説明があって、その旨信用し、使い続けたが、強度の接触性皮膚炎を発症した。

上記二点について、東京都衛生局薬務部薬事衛生課医薬品審査係に手紙を送った。

 皮膚障害により、勤務先ギャラリーにおける業務に支障が生じ、解雇された。

 店側の対応

 東京都衛生局薬務部薬事衛生課監視指導係から呼び出しを受け、パンフレットの不適事項について改善指示を受けた。その結果、被告製造会社は「敏感なお肌の方でも大丈夫です」との文言について「皮膚呼吸を妨げないメイクです」という表現に変え、注意書きも記載した。

 裁判結果

 製造物によっては、医薬品のように、製造業者等がこれを設計・製造するに当たり、その安全性につき、いかに配慮しても、当該製造物に本質的に期待される有用性ないし効用との関係で、完全には危険性を除去して当該製造物を製造することが不可能又は著しく困難なものが存在する。そのような製造物については、設計ないし製造における観点からみると、製造物自体において通常有すべき安全性を欠いているとはただちにはいえないものの、そのまま販売して消費者の使用に供するのはふさわしくなく、製造業者等としては、消費者が右製造物を使用する際にその危険性が現実化するのを防止するために必要と考えられる適正な使用方法等に関して、適切な指示ないし警告をする義務を負っているものと解され、右のような指示ないし警告が全く行われていないか、行われていても不適切である場合は、設計上又は製造上欠陥があるとはいえなくても、当該製造物は通常有すべき安全性を欠いているものと評価するのが相当であるという一般論を示した。

 そのうえで、本件化粧品の使用と顔面の皮膚障害との間の因果関係は否定できないが、化粧品自体が通常有すべき安全性を欠いているとは認められず、化粧品の指示・警告上の欠陥があったとは認めることはできないとして、原告の請求を棄却した。

 コメント

 本判決は、化粧品をはじめとする身体に直接使用する製品に起因する健康被害に関して参考になる事例です。

本判決は、結果として本件製品が製造物として通常有すべき安全性を欠いているとはいえないとして被告の責任を否定しましたが、「仮に、当該製造物に通常要求される指示・警告がなされていたとしても、他方で製造物の安全性について宣伝がなされている場合には、消費者に対して過度の信頼を与え、指示・警告の効果を弱めることになる可能性があるので、指示・警告の適否を判断する際には、右宣伝の有無、内容も総合考慮されなければならない。」と判示しており、宣伝広告・販促の仕方によっては製造業者の責任が発生する旨を判示している点が参考になります。 

 この点、本件においては、商品購入時点における化粧品売店の営業担当者がいかなる説明を行ったかが争点の一つとなっているところ、商品販売時の説明内容が争点となる訴訟は少なくありません。そのため、化粧品の製造会社・販売会社としては、販促物やパッケージ等に薬機法違反の記載がないかという点のみならず、販売員が不当に顧客を誤信させるセールストークを行っていないかという点にも留意する必要があります。 

 また、本件では、「敏感なお肌の方でも安心です」とのパンフレットの文言が争点となっているところ、裁判所は「最近では、敏感肌という言葉は、多様な用いられ方をしており、・・・アトピー肌を含めて敏感肌という言葉を使用している化粧品会社も存在するので、消費者に誤解を生みやすくなっていることは事実であり、・・・確実に消費者の誤解を避けるためには、敏感肌という言葉を使用する際には、アトピー性皮膚炎等を有する肌も含むのか否か等について、十分にその意味を説明する必要があるものというべきである。」と判示しており、「敏感肌」という統一的な定義の定まっていない文言を化粧品の宣伝に用いる場合には消費者に対する誤信が生じないように注意する必要があるとしている点が参考になります。

 なお、本件では、被告製造会社が東京都より、パンフレットの記載事項について改善指示を受け、実際にパッケージ等の記載について改善をしています。このように、行政機関から具体的な改善の指示・指導がなされてしまった場合には訴訟においても不利な立場に置かれると考えるのが自然ですが、必ずしも行政機関の処分と裁判所の判断が一致するというわけではありません。行政指導を受けた場合、当該指導には粛々と従う一方で、直接的なクレームへの対応については別途冷静に対処するべきであるといえます。

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