美容室に対する損害賠償請求事件

裁判年月日

東京地方裁判所平成17年11月16日判決

概要

 キャバクラ嬢である原告が、被告の経営する美容室において、求めたデザインと異なるカットをされ、カラーリングによって頭皮に傷害を負ったことが原因で、キャバクラにおける売上げが低下したとして、損害賠償を求めた事案。

クレーム内容

①カラーリングによって、原告の頭皮に、すずめの卵大の円形脱毛症様のただれを生じさせた。

②カットによって、必要以上に髪が切られ、その一部が40cm近く短くなり,エクステンションが必要となった。

①、②が原因となり、キャバクラにおける営業活動に支障が生じ、収入が減少した。

店側の対応

 原告の交際相手がカット終了後に原告と会い、原告の髪型を見て激怒し、被告美容室に強く抗議したところ、被告従業員は原告に対し、「本人の希望する髪の長さを私が誤ってカットしてしまいました。」、「私が責任を持って本人が納得するまで無料でケア致します。尚、他社でケアした場合の費用も私が責任を持って負担到します。」などと記載した念書を差し入れた。

裁判結果

 カットには、原告の求めたデザインと異なる部分があり、また原告の希望について十分な確認を経ずしてなされたものであるから、本件美容契約上の義務違反ないし違法行為が認められるとして、原告の請求の一部を認容した。

コメント

 裁判所は「デザインについての原告の求めはある程度抽象的であること、頭髪の状態、性質には個人差があり、また同一個人であっても年齢や頭髪のコンディションによっても変化するため、同じカットを施しても、結果が同じとなるとは限らないことを勘案すると、その抽象的に求められたデザインの髪型とするために合理的なカット手法を採用すれば、被告において、本件美容契約上の義務違反や違法行為は問題とならない」として、美容室のカット手法に関して求められる水準を示し、本件におけるカットが、合理的なカット手法に収まらず当該水準に達していないとして、契約違反があったことを認定しました。

 また、判決は担当の美容師「が原告の希望について,充分な確認を得ていないことは容易に推認できる。そうすると,被告には,この点においても,本件美容契約上の注意義務違反があり,違法な行為がある。」としており、美容室として、カットに際しては顧客の要望を十分に確認してからカットしない場合には違法行為になるとしている点が特徴的です。

 以上のことから、美容室において顧客からなされる「イメージと違う」「思ったのと違う」といったクレームがなされた場合、一概に不当クレームと決めつけるのはリスキーといえます。

 また、本件において特筆するべき点として、店側が原告とその交際者らの強い抗議を受け、「本人の希望する髪の長さを私が誤ってカットしてしまいました。」,「私が責任を持って本人が納得するまで無料でケア到します。尚,他社でケアした場合の費用も私が責任を持って負担到します。」などと記載した念書を差し入れたという事情があります。

結果としてクレーム内容が正当であるか否かにかかわらず、初動対応の時点でこのような念書や合意書の差し入れを行うことは、事案解決を極めて困難とする悪手です。

このような事態が生じてしまう背景には、クレームの一次対応にあたる従業員に対するクレーム対応についての研修等による対応方法の周知・教育が徹底されていないことが原因としてあります。

 美容系事業はクレームが多い業種となるため、従業員に対するクレーム対応方法の周知・教育徹底は必須といえます。

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